あたしの心、人混みに塗れて
肩を叩かれて振り向くと、スーツを着たおそらく同い年であろう男があたしを見ていた。傍にはスーツを着た二人の男女もいる。


「俺ら、さっきの面接会場で一緒だったんだけど、覚えてない?」


そう言われてあたしは必死にさっきの記憶を辿ってみたけど、集団面接でどうすればいいのかとそればかり考えていたから、同じ面接会場にいた人達の顔なんてじっくり見る余裕もなかった。


「ごめんなさい、あまり覚えてなくて……」

「あーそっか、残念。でもさ、これを機に仲良くなろうよ。ね、ちょっと飲みに行かない?」

「そうそう。みんなで飲みに行こうよ」


なんでわざわざあたしを誘うんだろうとは思った。これが目の前の男一人だけだったらおそらく断っていただろう。


でも、女の子もいるし、四人ならまあいいかなと思った。本当は一刻でも早く家に帰ってスーツを脱ぎ捨てたいけど。


「じゃあ…………ちょっとだけなら」


あたしは重い体を引きずって三人に着いていくことにした。


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