あたしの心、人混みに塗れて
連れていかれたのは居酒屋だった。四人でテーブル席に座って、ビールのジョッキで乾杯した。


あたしはあまりビールを飲めないから少しだけ口を付けてテーブルに置いた。


「みんな大学は?」


さっきあたしに話しかけてきた男が話を振って、残りの二人がそれぞれ答えた。ここの地元の大学だった。


ていうか、みんな初対面だったのか。


「相模さんは?」


名前で呼ばれてびっくりした。あたしはいつ自分の名前を公表しただろうか。さっきの面接で覚えられたのだろうか。


あたしがぼそっと自分の大学を言うと、他の三人はああなるほどねという顔をした。


まあ、ここらへんじゃあまり名は知れてないから。一応公立だけどね。


あまり他人と話せないあたしは目の前に運ばれてくる料理をちびちび食べてやり過ごした。そんなあたしなどお構いなしに、三人は盛り上がっている。


たまにあたしに話を振られることがあっても、適当に答えれば三人の話がまた始まった。


あたしは飲めないビールに少しだけ口を付けては、そういえば蒼ちゃんはどこの企業に行くんだろうとぼんやりと考えた。


理学部だから一般事務は少し考えづらい。研究職とか?


最後に会ったのは3年生の春先で、就職のことはあまり考えていなかったから、蒼ちゃんとそういう詳しい話はしていなかった。


知りたいと思ったけど、今となってはもう遅い。


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