あたしの心、人混みに塗れて
「え、あの、そ、蒼ちゃん……」

「まあ、大方、押し倒されて胸揉まれたってとこだろうけど」


……大正解です。蒼ちゃん。


19年一緒に幼なじみだから、やはりさすがだと言うべきか。


「……あと」


あたしは左の髪の毛をかきあげて蒼ちゃんに首筋を晒した。


「……なるほどね」


蒼ちゃんの指が赤くなった跡に触れた。


「相当愛されてるねえ、とも」


愛されてる……また蒼ちゃんは恥ずかしいことを。


蒼ちゃんの笑顔は、昔からあたしを落ち着かせてくれる。


蒼ちゃんの彼女になった女の子は、きっと幸せだろう。 


優しいし、気がきくし、女の子のことをよくわかっているし。


これが男らしいイケメンだったら引くけど、可愛い系の蒼ちゃんだから全然違和感がない。


彼女いたこと、あるのかな。


大学に入ってからはいないことはわかってるけど。


「蒼ちゃんが彼氏だったら、受け入れられてたかな……」


一瞬本気で思ったことが、気付けば口をついていた。


「なーに言ってんの。ともにはかっこいい彼氏がいるくせに」


蒼ちゃんが頭に手を乗せてきて、髪の毛をくしゃくしゃに撫でられた。


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