あたしの心、人混みに塗れて
あたしは結局蒼ちゃんに連れて行かれた。近くのビジネスホテルだった。


「ラブホはここから少し離れたとこにあるからね。そこまで行くのめんどくさいし」


当日でも部屋を確保できて、部屋に行くためのエレベーターの中で蒼ちゃんは呟いた。


「さすが、知ってるね」

「俺も男ですから。ともも、スーツだしそのパンプスで歩くのしんどかったでしょ?」


蒼ちゃんがあたしを一瞥して、あたしの心を覗いたように行った。


「……よくわかったね」

「だって、スーツって普通に堅苦しいじゃん。俺もそんなに慣れてないから、スーツに革靴で歩き回るのはしんどいし」


そう言って、蒼ちゃんはあたしの手を握って指を絡ませてきた。


「ちょ、蒼ちゃん」

「大丈夫。とものスーツが珍しいからっていきなり襲ったりしないって」


なんて笑顔で言う蒼ちゃんはものすごく怪しいと思ったけど、本当にそれ以上はしてこなかった。

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