あたしの心、人混みに塗れて
部屋に入って、あたしはベッドに座って真っ先にパンプスを脱いだ。


「疲れたあ~」


解放された足を投げ出してベッドに横になると、蒼ちゃんはそんなあたしを見下ろして笑っていた。


「ほんと、相変わらず無防備だねえ」


満面の笑みで言ってくるもんだから、あたしはぱっと起き上がった。


「襲わないって。でも、これが他の男だったら確実に襲われてるよ、とも。他の男に見せたりしなかった?」

「あたしが基本男が苦手で、男とほとんど関わりがないこと知ってて言ってるよね、それ」

「うん」


にこにこと笑う蒼ちゃんがあたしの隣に腰を下ろした。 


どこまでもお見通しなのだから本当に悔しい。


蒼ちゃんはあたしを抱きしめた。


「ともだあ…………」


あたしを自分の腕に閉じ込めて、首筋に鼻を当ててスンスンと匂いを嗅いでいた。


「全然変わってないや……」

「当たり前でしょ。一年やそこらで変わったりしないよ」

「俺にとっては10年くらい離れてたような感じだったけど」


あたしは何も言わなかった。あたしも、同じように感じていた。蒼ちゃんと離れてから、一日一日が長く感じられた。一週間が一ヶ月に感じられた。たった一年離れていただけなのに、もう二度と会えないような気がしていた。


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