あたしの心、人混みに塗れて
それからしばらくは、まだよかった。


その日の夜、昌人は謝罪の電話をくれて、あたしも嫌ではなかったけどびっくりしたということを伝えた。


かといって、次にそういう場面になったときに昌人を受け入れられるかと言われたらそれは無理があるけど。


そう思いつつ、次の週も昌人の家に行った。


飽きることなく、いつも通り話は途切れなかった。


ただ、先週のようにキスをしてくることはなかった。


それどころか、昌人はあたしから離れて座っていて、あたしには指一本触れてこなかった。


あたしに気を使っているのはすぐにわかった。


拒否られると気まずいと連絡が途絶えがちになるというのを聞いたことがあるけど、昌人はそんなことはなくて、以前と変わらず毎日連絡をくれた。


男はやりたいと蒼ちゃんは言っていたけど、あたし達はそういう関係じゃなくても大丈夫なのだと信じたかった。


< 29 / 295 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop