あたしの心、人混みに塗れて
「とーも。あ、奏也だ。俺のこと覚えてるかな? 生まれた時に一度抱いただけだもんね」


初めまして、と蒼ちゃんが奏也に顔を見せると、奏也はじっと蒼ちゃんの顔を見つめた。ニコニコしている蒼ちゃんに「抱いてみる?」と奏也を渡しても、奏也は蒼ちゃんをじっと見つめるだけで暴れなかった。


「あら、珍しい。この子、初対面の人には泣いて暴れるのに」


母さんも介入してきた。


「奏也くん、俺蒼大。名前似てるねー」

「そー……?」

「うん。奏也はいい子だねー。お姉ちゃんとは大違い」

「蒼ちゃん、なんであたしを引き合いに出すのよ」

「とももだいぶ手のかかる子だからねー」

「……何それ」


奏也はいつのまにか蒼ちゃんに懐いていた。30分もしないうちに、蒼ちゃんと遊び始めて、あたし達姉弟は呆気に取られていた。


「やっぱり、遺伝かしらねえ」


母さんだけはニコニコとその様子を見ていた。


「何それ」

「だって、ともは言うまでもないし、慎と絢も生まれた時からずっと蒼大くんに懐いてたし。我が家は蒼大くんが大好きなのねえ」

「…………まあ、否定はしないけど」


なんだか恥ずかしくて、あたしはお茶を入れに台所に行った。


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