あたしの心、人混みに塗れて
実家から大量に送られてきたからと蒼ちゃんが作った苺のパイは、アップルパイのイチゴバージョンのようなものだった。


自家製の苺のコンポートをパイ生地に乗せて、その上に格子状になるようにパイ生地を被せて焼いたらしい。


6等分に切られたパイにかぶりつく。


「あつっ……」

「できたて熱々だから気をつけてね」

「……おいし」


苺のほのかな酸味と甘味がバターたっぷりのパイとよく合って、あたしが今できる一番の笑顔になれた。


さすがに振られたばかりで満面の笑みを作ることはできない。


「よかったあ」


蒼ちゃんがふわりと笑う。


「蒼ちゃんさすが。コンポートから作ったんでしょ?」

「うん。パイ生地は前に作り置きしておいたやつだけど」

「すごいおいしい。蒼ちゃん、あたしの専属の料理人になってよ」

「あはは。いつまで専属でいれるかなー」

「あーでも、蒼ちゃんに彼女ができたら彼女にも料理振る舞っちゃうか。専属じゃなくなるなあ」

「何言ってんの。今はいないから安心して」

「でも、いつできるかわかんないじゃん。蒼ちゃん、学部の中じゃ一番イケメンって噂聞いたことあるよ」

「えーまさかあ。俺が女子と仲いいからひいきされてるだけじゃないのー?」

「まあでも、蒼ちゃんけっこう顔整ってるから。わかる人にはわかるんだよ」


蒼ちゃんが女の子のトレンドに詳しい理由は、学部の女子とも仲がいいことにもある。


とっつきやすい優しげなルックスの蒼ちゃんは、男女問わずに誰とでも話せて、蒼ちゃんの周りには常に人が絶えない。


あたしはけっこうな人見知りで学部の中じゃ昌人や特定の人としかいないから、蒼ちゃんとは正反対なのだ。


あ、でもこれからは一人が多くなるのかな。振られちゃったからな。


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