あたしの心、人混みに塗れて
昌人はやらせてくれないからあたしを捨てた。所詮、昌人はそういう男だったんだ。結局やらせてくれる女を選んだ。


あたしは我慢した。昌人が用事があるからと会うのを断ることに不審に思いながら、あたしは何一つ文句を言わずに我慢した。


でも、あたしが悪かったのだろうか。もし会いたいと言えば、少しでも昌人を困らせていたら、あたしは振られなかったのだろうか。


もしあたしが昌人を受け入れていたら、あたしは今も昌人の隣にいただろうか。怖いけど大丈夫と、気を使う昌人に言えばよかったのだろうか。


わかっている。あたしが悪いのだ。ガードが固いあたしが悪かったのだ。大学生にもなって、彼氏ができた自覚が足りなかったあたしが全面的に悪い。


そんなことを、泣きじゃくりながら蒼ちゃんにぶちまけた。嗚咽と混じって、たぶんほとんど聞き取れなかっただろうけど、蒼ちゃんはうんうんと頷いてあたしの話に耳を傾けていた。


怖かった。受け入れてしまったら、何かが変わってしまうことが怖かった。あたしは臆病者なのだ。他の人よりも踏み出すのがかなり遅い。


そんな自分が悔しかった。


泣いて泣いて泣きわめいて、ようやく嗚咽が収まった頃には眠気が襲ってきていた。


昔から嗅ぎ慣れた蒼ちゃんの匂いが眠気を余計に募らせる。


柔らかくて、ちょっと男の子の匂いがする。


あたしが泣き止んでもあたし達はしばらく抱き合っていた。


蒼ちゃんの腕の中で必死に眠気と戦いながらまだ離れたくなくて、あたしは腕の力を強めた。


ほんと、蒼ちゃんが彼氏だったらよかったのに。


蒼ちゃんのことは幼なじみとして大好きだ。でも、この関係のまま付き合えたらすごくいいんだろうなと思った。


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