あたしの心、人混みに塗れて
「ともー、シュークリーム一緒に食べよおー」


帰ってくるなり、蒼ちゃんが満面の笑みで後ろからあたしに抱き着いてきた。


「わ、蒼ちゃん、包丁使ってるから。危ないから」

「今日はなにー?」

「玉ねぎとサーモンのマリネ。蒼ちゃん、味噌汁にしめじ入れるからね」


玉ねぎを切る手を止めずに言うと、後ろで蒼ちゃんが嫌そうに顔をしかめるのが見なくてもわかった。


「……ともにあげる」

「ダメ。食べないとシュークリームは没収」

「とも母さん、厳しい」


がっくりと肩を落として冷蔵庫の中にシュークリームを二つ入れた。


「どこで買ったの?」

「そこのスーパー。今日が消費期限で、一つ45円になってた」

「おお、すごい安いじゃん」

「普通だったら一個198円するおいしいやつだよ。だからさ、とも」

「しめじはちゃんと食べてください」

「最近玉ねぎを食べれるようになった俺を褒めてよお……」


玉ねぎを水の張ったボウルに入れて手を洗う。包丁も洗う。味噌汁が入った鍋を覗き込んで蒼ちゃんが顔をまたしかめている。


その姿を見てあたしは笑みが零れる。


相変わらず可愛い。


「蒼ちゃんは昔から好き嫌いが多いんだよ」

「最近ほとんど食べれるようになったもん。嫌いなのキノコくらいだもん」

「口尖らせて可愛くしてもしめじの味噌汁だからね」

「ばかともめ、犯してやりたい」


さすがにこれには笑えない。


あたしの顔の筋肉が一瞬で強張った。


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