あたしの心、人混みに塗れて
別れてからあたし達はほとんど関わらなかった。同じコースだけど、関わろうとしなければ全く顔も合わせずにずっと過ごしてきた。


だから、最近は忘れられていた。


昌人に振られたという事実を。


「昌人、相模さんのときだいぶ手こずってたもんな。結局やらせてもらえなかったんだろ?」

「あんなにガード固いの、俺初めてだったし。高校生ならまだしも、もう大学生だよ。いい大人だぜ。なのに、初めてだからって、キスすらそんなに乗り気じゃなかったし。どこの純情ぶったお嬢さんだよって」

「あれ、どっちから告ってきたんだっけ?」

「智子だよ。ったく、やらせてくれねーんだったら告ってくんなって。付き合わされた俺の身にもなれっての。最終的に我慢できなくなってはるかとやってたし」

「うわ、相模さんかわいそー。本命の彼女よりセフレ選んだ昌人さいてー」


二人でけらけら笑っているのを聞いて、あたしはその場から離れることができなかった。


やっぱりそんな風に思われていたのだ。自業自得とはいえ、やっぱり言われると辛いものがある。


あたしはやっぱり昌人を受け入れればよかったのだろうか。


ぎゅっと唇を噛み締めて沸き上がる感情に耐えた。ここで泣いてはいけない。


治ったと思った傷も、こうも安々とえぐられてしまってはひとたまりもない。


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