あたしの心、人混みに塗れて
「ともは本気であんたが好きだったんだ。あんたみたいにやることが目的じゃなくて、純粋に好きだったから付き合ってた。確かにともはガード固いけど、それはあんたが急かしてたからじゃないの? 軽いキスだけでやりたいって誘われたら、そりゃあ警戒もするよ。ともの初めての彼氏があんたってことわかってたんでしょ? 経験豊富なあんたがともを気使ってやるのが普通なんじゃないの? お前がやれなかった理由、ともに押しつけんなよ」


蒼ちゃんの拳が昌人の顔目掛けてまっすぐ振りかぶられる。あたしは思わず「蒼ちゃん!」と叫んでいた。


鈍い音が教室に響き渡る。誰も何も発しなかった。


昌人の大きい息遣いだけが教室を充満していく。


「……二度とともに関わるな」


壁を殴った拳を外して、蒼ちゃんは昌人から離れた。


教室を去るときにあたしの手を握ってきた。


「智子……」


一瞬こちらを向いた昌人と目が合ったけど、あたしはそれから逃れるように蒼ちゃんに促されるままその場から離れた。


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