あたしの心、人混みに塗れて
「ご、ごめんなさい…………」


食卓に上がったのは、結局焦げてしまった一口カツ。


それと、通常営業のご飯とあおさの味噌汁とレタスとミニトマト。


蒼ちゃんの大好物を振る舞ってあげたかったのに。


申し訳なくて顔を伏せていると、蒼ちゃんの口に一口カツが吸い込まれていく。


「大丈夫だよ。焦げてるのは衣だけだし。おいしいよ」


蒼ちゃんは優しいけど、お世辞は決して言わない。素直で、いつでも本当のことを口にする。


あたしも恐る恐る自分のカツを口にする。


「大丈夫でしょ?」

「ん…………」


自分で作ったものを蒼ちゃんに確かめてもらうあたしは、なんて小心者なんだ。


「ありがと。すごいうまいよ」


蒼ちゃんが手を伸ばして、あたしの頭を撫でて笑った。


「でも、料理中ぼーっとしてるなんてともらしくないね。なんか考え事でもしてたの?」


蒼ちゃんは何の考えも無しにさらっと言ったんだろうけど、見事に図星であたしはうっと唸ってしまった。


「まさか、俺のこと考えてたとか?」


にやりと笑った蒼ちゃんの言葉はこれまた図星で、あたしは蒼ちゃんから目を逸らして、別に……と呟いた。


それを見た蒼ちゃんはふは、と笑って冗談だってーとけらけら笑っていた。


< 58 / 295 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop