あたしの心、人混みに塗れて
「ともが飲んで。俺もう無理」

「あたしだってビール苦手なのに。なんで買ったの」

「慣れとかなきゃねえ。だから小さいの一本しか買わなかったの」

「あたしも飲めないよ」

「初めてじゃないの?」

「あたしも学部の飲み会行ったことあるし」

「栗山くんと付き合ってるとき?」

「まあ、ね」


あの時は、昌人がいたから友達がいない学部の飲み会でも全然気にならなかった。


今じゃそんな誘いすら来なくなったけど。


「ふうん」


蒼ちゃんは曖昧に頷いて、ジントニックの缶を開けた。


あたしも蒼ちゃんの飲みかけのビール缶に口づけた。


……あ。間接キス。


自覚したと同時に、流れ込むビールの苦みが一瞬消えた気がした。


蒼ちゃんが口づけたところから少しだけ甘味が流れ込んでくる気がして。


変態かな、あたし。


あたしは中身が半分ほど減ったところでビールを飲むことをやめてカシスオレンジに落ち着いた。


たとえ蒼ちゃんの力を借りても半分が限界だった。


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