あたしの心、人混みに塗れて
「ともはさあ」


あたし達が酒に強い方ではないことは前からわかっていた。でも、成人になれたという興奮が相まって、蒼ちゃんは今日に限って飲むペースが早かった。


あたしがようやくカシスオレンジを飲み終えた頃には、既に5本の缶が開けられていた。


「なんで栗山くんのこと好きになったのお?」


あたしの肩に頭を乗せて、あたしをじっと見上げる蒼ちゃんは完全に酔っていた。


「蒼ちゃん、飲みすぎ」


あたしが顔をしかめても、蒼ちゃんは動じなかった。普段でも動じないけど。


「ねえ、なんでえ?」


こうなると蒼ちゃんはしつこい。


適当に答えて流すしかない。


でも、あたしも頬が熱くなっていて、いくらか酔っていた。


「学部で友達がいないあたしに優しくしてくれたから」

「それは、どういう意味で?」

「たぶん、一人でいたからほっとけないって感覚だったんだと思う。少なからずあたしは寂しかったから、すごく嬉しかった。それも相まってすぐ好きになっちゃった」


淡々とそう言って、あたしは桃のチューハイの缶に口づけた。


今こそ学内に友達ができたから学部内に友達がいなくてもずいぶん楽になったけど、入学したてのあたしは学部内が大学での居場所にするしかなかった。


それでもその中でも唯一友達がいないあたしを放っておけなかったのが昌人だった。


「別に昌人はあたしが好きで近づいたわけじゃない。昌人はかっこいいから、ほっといても女がわんさか寄ってくる。あたしは勘違いをしてただけ」

「なんでともがそんなことわかるのさ」


いつのまにか蒼ちゃんの手があたしの腰に回って、お互いの体はかなり密着していた。


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