あたしの心、人混みに塗れて
「今日はお風呂入っちゃダメだからね」

「ともはあ?」

「入る」

「えー。じゃあ、俺も入らせてえ」

「いい大人が何言ってんの」

「ともは俺の保護者でしょお?」

「あたしは蒼ちゃんより年下です」


抱き着こうとする蒼ちゃんの頭を手で押し戻す。


「蒼ちゃん、それ何?」

「シチリアレモンのチューハイでえす」

「え、いいな。あたしにもちょうだい」


レモン味はあたしが一番好きな味だ。


あたしが手を伸ばすと、蒼ちゃんは「んー……」と唸って缶に口づけた。


「けち」


酔っ払いを相手にしてもしょうがない。


あたしは蒼ちゃんをほっといて立ち上がろうとした。


すると、あたしの腕が引っ張られて、蒼ちゃんに唇を奪われた。


「!?」


唇が触れたまま蒼ちゃんの両手があたしの頬を包む。


わけのわからぬまま硬直していると、熱い何かがあたしの唇を割って、冷たい液体があたしの咥内に入ってきた。


蒼ちゃんが離れると同時に、あたしは思わずその液体を飲み込んでいた。


口の中に残る甘ったるいもの。


今の…………口移し?


当の蒼ちゃんは、満足したようにあたしにもたれて寝息をたてていた。


これ…………どうすればいいの?


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