あたしの心、人混みに塗れて
次の日は4月にしてはかなり寒い、雨の日だった。


朝のニュースでは、最高気温が3度でこの春一番の冷え込みで、夜には雨が雪に変わるとも言っていた。


「寒い…………行きたくない」


二人とも面倒で片付けていなかった部屋のこたつが、蒼ちゃんによって久々に活躍していた。


「蒼ちゃん一限からでしょ? もう行かないと」

「いいなあ……ともは午後からでえ……」

「それは時間割の問題です」

「ともお…………温めてえ」

「こたつで暖まってるでしょ。冬のコート、出しといたから」


あたしは黒のダッフルコートを蒼ちゃんに手渡した。


「着させて。手出したくない…………」

「自分で着なさい」


蒼ちゃんは寒いのが大の苦手で、こういう日はいつもの二倍増しで甘えん坊になる。


あたしは蒼ちゃんの目の前にコートを置いて、自分の部屋に行った。


「ともおー。手袋取ってえー」


あたしが冬物を出しているうちに、蒼ちゃんは玄関に移動していた。


あたしがバタバタと玄関に行くと、蒼ちゃんは既にブーツを履いて準備は整っていた。


「はーいはい。これだよね」

「ん。ありがと」


蒼ちゃんに手袋を渡して、あたしは蒼ちゃんの首に赤のチェックのマフラーを巻き付けた。


こんな女の子らしいものも蒼ちゃんには似合ってしまうのだから全く罪な男だ。


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