あたしの心、人混みに塗れて
「やっぱ、イケメンなんだなあ」


男には厳しい千晶が褒めるのだから、蒼ちゃんは顔も中身も相当イケメンなのだと思う。


「いいなあ、智子。私にちょうだいよ、川島くん」

「えー」

「ただの幼なじみなんでしょ? 一晩だけでもいいからさあ」

「……一晩?」


あたしはシナモンロールを食べていた手を止めて思わず顔をしかめていた。


『一晩』よりも『ただの幼なじみ』という言葉に反応していた。


あたし達は、どうあったって幼なじみで。蒼ちゃんが誰のものになろうと関係ないわけで。


それが、仮に親友である千晶のものになろうと。


そして、千晶と一晩を過ごしたとしても…………


「智子?」


固まってしまったあたしの腕を千晶が掴んだ。


「ちょ、冗談だから。何怖い顔してんのよー」


苦笑を浮かべてぽんぽんと頭を撫でられた。


「……考えた?」

「え?」

「蒼ちゃんと一晩、なんて……」


蒼ちゃんが、裸の千晶を…………


そう考えたら、千晶に頭を平手で叩かれた。


< 70 / 295 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop