あたしの心、人混みに塗れて
「恋愛経験が多い千晶さんに聞きますけど」

「別に、言うほど多くないけどね」

「この年で二人と付き合って最後までやってたら十分多いよ。あのさ、ディープ…………って、どのへんからそう言うのかな?」

「あんたも十分真っ昼間から過激よ。え、どのへんからってどういうこと?」


少しだけ気にかかっていたのだ。


昨日の口移しはキスに入っていたのか。


そして、蒼ちゃんの舌があたしの咥内に入ってきた状態をなんと言うのか。


こういうものは人それぞれの見解があるだろうし、正解なんてないとは思うけど、それでも他人の意見が知りたかった。


まさか、それを当の本人の蒼ちゃんに聞くわけにはいかないし。そもそも酔っていたから覚えていたかも危うい。


「舌……が入っただけだったらどうなのかなあ…………って」


あたしが切り出したとは言え、こんな真っ昼間にそんな生々しい話をするのも少しだけ気が引けて、あたしはもごもごと言葉を濁した。


詳しく言ったら千晶に詳しく聞かれるのがオチだ。それはさすがに恥ずかしい。


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