あたしの心、人混みに塗れて
「あ、ともー」


授業が終わって帰ろうとしたら、経済棟の前で蒼ちゃんが立っていた。


「蒼ちゃん」


昼に千晶と過激な話をしていたのを思い出してなんだか急に恥ずかしくなった。蒼ちゃんの顔を直視できない。


「俺のビニール傘盗られたみたい。入れてー」

「そんならさっさと帰ればよかったのに」


蒼ちゃんの隣に行くと、凍てつくような寒さが顔に襲った。本当に今は4月なのだろうか。


あたしは思わず真っ赤になっている蒼ちゃんの頬に触れていた。やっぱり冷たい。


「こんな寒い中で待ってたの?」

「ほんの3分くらいだから大丈夫だよお」


へへっと笑う蒼ちゃんは時々優しい嘘をつく。この寒い中10分以上は待っていたに違いない。


「ともにおねだりしようと思ってー」

「誕生日プレゼントならもう買わないよ」

「コンビニでスイーツ買ってー」

「今月のお小遣いは?」

「今週末部活の飲み会あってちょっとギリなんだよね。食費から出してよお」

「……あたしが選んでいいよね」

「やったっ。とも大好きいー!」


授業が終わった直後で人が多い外でも抱き着こうとする蒼ちゃんを軽くあしらって、あたしは傘を開いて蒼ちゃんと歩き出した。


途中にあるコンビニに寄って、モンブランを二つ買った。


「あっ」


コンビニを出てから気づいてしまった。


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