あたしの心、人混みに塗れて
「蒼ちゃん、傘買えばよかったのに」


コンビニにあったじゃんと言うと、蒼ちゃんは「んーそうなんだけど……」と歯切れ悪く唸った。


その反応は、わかっていながらわざと買わなかったな。


「だって、相合い傘できなくなるし」

「は?」

「昔よくやったよね、ともと相合い傘」

「ああ、だって、蒼ちゃん通学路の至るところで傘なくすんだもん。あたしが入れなきゃ、蒼ちゃん今頃ここにいないんじゃない?」

「あはは、そうかも」


泣き虫のわりに、小さい頃はやんちゃだった。その割に雨に濡れるとすぐに風邪を引いて、あるとき喘息になりかけたこともあった。


「まあ、それに」


蒼ちゃんの手が傘の柄を持っているあたしの手に伸びてそのまま引き寄せる。


バランスを崩したあたしは蒼ちゃんにもたれる形になって、唇に蒼ちゃんの冷たい唇が触れた。


「こういうこともできなくなるし」


あたしの手を掴んだままの蒼ちゃんが唇を離してにやりと笑った。


あたしはただ硬直して、それでも体の内から熱くなっていくのがわかった。


「そ、外でこんなこと…………っ」

「えー、だっていつもしてるじゃん。これよりもすごいこと」

「は…………?」

「外が恥ずかしいなら、家でやっちゃう? あっため合うこと」

「し、してないっ!」


あたしの反応に蒼ちゃんはけらけら笑っていた。


なんでいきなりこんな過激なことを口走ったのか。


その理由がわかったのは、一月後のことである。


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