あたしの心、人混みに塗れて
『毎週毎週夜にともだけ置いてったら俺も心配だしねー』

『何それ。あたし一人だったらめんどくさがってご飯食べないで済ませるだろうって?』

『それもあるけど、女の子一人だったら襲われるかもしれないでしょ?』

『あたし、休みの日はほとんど家から出ないけど』

『家にいても危ないって。最近、近所で増えてるみたいだよ。一人暮らしの女の人を狙う不審者』

『や、あたしは蒼ちゃんと暮らしてるし』

『不審者ってさ、けっこう見てるみたいよ、狙う人の行動パターン。俺が毎週土曜に飲み会に行って、この家にはとも一人だってばれたら、確実に襲われるよ』


スポンジで食器を洗うあたしのこめかみに、蒼ちゃんは手を銃の形にして当ててにやりと笑った。


『……その犯人、蒼ちゃんだったりして』

『ひどーい。俺が欲求不満みたいじゃーん』

『蒼ちゃん、可愛いから他の女の人も警戒心薄れるんでしょ。そこを襲うとか』

『うーん、やってみたいシチュエーションではあるけど、警察沙汰になるのはやだなあ』

『やりたいんだ。うわ、引く』

『え、引かないでよ。俺だって男だよ』

『そんなことしない紳士もいるし』

『傷つくー。とも、ひどーい』


そんな会話を一週間ほど前にしていたことを思い出した。


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