あたしの心、人混みに塗れて
部屋に戻ると、千晶の予想通り蒼ちゃんは真っ赤な顔をして寝ていた。


あーあ、ベロンベロンじゃん。


しかも蒼ちゃんが知ってか知らずか、女の子の膝に頭を乗せていた。


ミニスカートを履いている、生足剥き出しの可愛らしい女の子だ。あたしはその顔に見覚えがあった。同じコースの、あたしが可愛らしいと思っていた子だ。


堪忍袋の緒が切れそうだった。今だったらぶっちんと切れても許してくれるはずだ。たぶん千晶が。


それでもここで切れるわけにはいかないと必死に思い止まって、席に座ってカルピスサワーを煽った。そして、傍の店員さんにジントニックを頼んだ。


あたしは軟骨揚げをぼりぼりと噛んだ。腹が立つ。理由はわからないけどとりあえず腹が立つ。


『羨ましい?』


千晶の声が蘇る。


ろくでもないこと聞いてんじゃねーよ。


たぶん、あたしは自分のものを他人に取られたような気がして腹が立っているのだ。駄々をこねる子供だ。他人と共有すればいいものを、あたしは自分だけのものだと離したくないのだ。


昔から蒼ちゃんはあたしの隣にいた。蒼ちゃんはあたしを頼ってきた。だから、隣にいることが当たり前だった。それ以外の当たり前なんてない。


強い独占欲があたしの中で根付いていた。


蒼ちゃんはあたしのものだ。他人にやるもんか。


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