あたしの心、人混みに塗れて
ジントニックが運ばれてきた。あたしはそれをわずか10秒で飲み干して、更にグレープフルーツサワーを頼んだ。店員さんが驚いている姿をあたしは嘲笑った。あたし一人の笑い声など他の話し声や騒ぎ声で掻き消されてしまう。


じゃあ、蒼ちゃんが男の膝で寝ていたらよかったの?


チーズベーコン串とサーモンのお造りを一人で貪りながら、あたしの頭は別の方向へ論点を変えていた。


想像してみる。蒼ちゃんが男の膝で寝ている光景を。


傍から見たらこりゃあ気持ち悪いの一言だ。でも、今ほど嫌悪感は抱かない。


男女で出てくる嫌悪感の差。


あまりに近くて、それはない、一緒に暮らしているのだからあってはならないと無意識に蓋をしていたもの。


蒼ちゃんが「男」の顔を見せて、あたしの中で少しずつ頭角を現していた、もやもやとしたどす黒い何か。


他人に言われるまで気付かないほど鈍感だったらまだよかったのになと思うけど、あたしはあいにくこういう感情に対してそこまで鈍くはないらしい。


あたしは、蒼ちゃんを異性として見ている。


そして、異性の蒼ちゃんをも好きなのだ。


< 84 / 295 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop