あたしの心、人混みに塗れて
自覚したからって、どうってことはなかった。


わかっていた。あたし達は男と女という違う生き物であり、一緒に暮らしていることなんて本来おかしいことで、でもあたしは蒼ちゃんの優しさに甘えていたと。


幼なじみなのだから、蒼ちゃんの成長はずっと傍で見てきた。ずっとあたしより高かった蒼ちゃんの声がある日突然低くなって(他の男子に比べれば高いものであったけど)、喉仏というピンポン球みたいな丸いものが喉から突き出て、部活で鍛えた体は日に日に筋肉質になっていって、身長はあたしと同じくらいのスピードで伸びたからそれはまあいいとして、そんなものをずっと隣で見てきた。


中身は小さな頃から変わらないといっても、こうも外見に変化が出てくるのを間近で見てしまっては、目の前の幼なじみはあたしとは違う人間で、男の子なのだと意識しないわけがなかった。


蒼ちゃんをただの幼なじみなんて思ったことなんて、一度もなかったのだ。


ばかみたい。二十歳を目前にして今更自覚するなんて。


あたしはグレープフルーツサワーを一口飲んだ。泣きたい気持ちも飲み込んでしまいたかった。


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