あたしの心、人混みに塗れて
とはいえ、ここにいるのもあたしの我慢の限界が近づいていた。


最後まで飲んで蒼ちゃんに多大な金額を突きつけられないのは残念だけど、それよりもあたしは早く帰りたい。


いつの間にか起き上がってふらふらとおぼつかない手つきで烏龍茶を飲んでいる蒼ちゃんを見て、今だと思った。


鞄を手に持って立ち上がる。


「蒼ちゃん、あたし先帰るね」


蒼ちゃんの後ろから肩を叩いて呟いた。


「え、とも?」


何も知らない蒼ちゃんは驚いた目であたしを見る。


「用事ができたって幹事の人に言っといて」


当然嘘だ。正気ならば蒼ちゃんもわかっただろう。


何となく引き止めて欲しかったという気持ちはあったけど、それよりもここから一刻も早く立ち去りたかった。


ぱちくりとする蒼ちゃんを置いて、あたしは外に出た。


勝手な奴だと思われても仕方ない。蒼ちゃんに呆れられても仕方ないけど、やっぱり少し寂しかった。


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