あたしの心、人混みに塗れて
家に帰ると、玄関でふらっと足元が揺れた。


それと同時に視界がぐらぐらと不愉快に揺れた。


あたしは扉にもたれ掛かって荒い呼吸を繰り返した。


やばい。飲み過ぎた。


酒が弱いあたしに10杯はきつい。


蒼ちゃんに悟られないようにと我慢してきたけど、本当は少しずつぐらぐらしていた。


壁伝いに台所まで行って、コップに水を汲んで続けざまに何杯か飲んだ。


心臓が苦しいほど鼓動を打っている。深呼吸をしようとしてもうまくできない。


ハア、ハアという荒い呼吸が部屋に響く。


やばい。苦しい。窒息する。


気持ち悪くはない。吐きたくもない。ただ苦しい。


あたしはこのまま死ぬのだろうか。


このままいったら呼吸障害とか心臓発作か何かで本当に死んでしまうと思った。


流しにコップを置いて、また壁伝いによろよろと歩く。


早く部屋に行ってさっさと寝よう。


蒼ちゃんをどつくという思考はこの時既になかった。


苦痛が肉体と思考を支配していく。


蒼ちゃんが傍にいてくれたら、必死に介抱してくれたかな。


そう思うなら、無理やりにでも連れて帰ってくればよかったのに、それができない自分のへたれ具合に笑える。


一瞬、視界が真っ白になった。


あ、やばい。


あたしの意識はそこで途切れた。


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