あたしの心、人混みに塗れて
何が起きたかわからない。


一瞬離れては、またあたしの口を塞ぐ。


苦しい。思わずくぐもった声を漏らしていた。


心臓の鼓動が苦しくて呼吸をしていなければ死んでしまいそうなのに、蒼ちゃんの唇がそれを阻止する。


触れては離れ、角度を変えてまた触れてくる。あたしの吐息すらも奪うような、噛み付くようなキスだった。蒼ちゃんの唇が触れる度に、あたしの心臓の鼓動は激しくなっていく。


蒼ちゃんの体が覆いかぶさっていて、それが余計に苦しかった。


お願い、離れて。


「そ、ちゃ……やめ…………」


蒼ちゃんがやっと離れて、あたしは息も切れ切れにそう訴えた。


荒く呼吸を繰り返すあたしの息遣いだけが部屋を支配する。


蒼ちゃんは再びあたしの唇を塞いだ。


次の瞬間、あたしの唇を割ってあたしの舌を激しく絡めとる熱いもの。


それが蒼ちゃんの舌だとわかったのは、呼吸もままらなくなって頭がぼんやりとしてきてからだった。


蒼ちゃんの舌があたしの咥内をうごめいて、あたしの舌をやすやすと捕える。どうにか逃げようと舌を動かしても、それは蒼ちゃんの舌と更に絡まる。


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