あたしの心、人混みに塗れて
そして、その最悪なタイミングで親から電話がかかってきた。


夕食を食べ終えたら、テーブルに置いていたスマホが震えた。


「あ、母さん……」


久々に親のことを思い出したから、気分が重い。


「ともママから? 珍しいね」


蒼ちゃんはあたしの向かい側でアイスを頬張っていた。


あたし達の親が電話をかけてくるのは月一くらいだ。お互いの子供を信用しているから、あまり気にならないらしい。


「早く出てあげな」と蒼ちゃんが促して、あたしはその場で電話に出た。


「もしもし」

『あ、とも? 久しぶり』


母さんも普段、あたしのことをともと呼ぶ。というより、母さんが昔から呼んでいるのを蒼ちゃんが真似したと言った方が正しい。


智子と呼ぶのは、自分が不機嫌な時か説教の時だと決まっている。


「どうしたの? 今日はなんか嬉しそうだね」


18年間ずっと傍にいれば、親の声色一つでどんな感情を抱えているかくらいわかってしまう。


『あ、わかった?』

「バレバレ」

『それがね、相模家にビッグニュースが飛び込んで来たのよ』

「慎也(しんや)と絢也(けんや)が二人まとめてテストで100点取ったとか?」

『違いまーす。それよりもずーっと嬉しいこと!』

「……何それ」


ていうか、それって何気に双子に失礼じゃない?


『とも、喜んでくれる?』

「時と場合と内容による」

『なんと、母さん、妊娠しましたー!』

「は、はああああっ!?」


あたしは思わず立ち上がっていた。


あたしの声と椅子のガタッという音に蒼ちゃんがビクッと驚いたのがわかったけど、気にかけている余裕はなかった。


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