Under The Darkness
「ああっ! 美里ちゃん!」
突然聞こえたドスの効いたダミ声に、私はハッと視線を向けた。
廊下で立ち竦んだまま、こちらを驚きの眼差しで見つめるのは、知的な容貌をした壮齢な男性。でも、凄い強面。
その顔が、今は情けないほどに悲愴な面持ちになってる。私の姿を捉えた目が、今にも泣きそうにくしゃりと歪んでいた。
そして、いきなり廊下から庭へと飛び出すと、薄い雪の上を草履も履かず素足で駆け寄ってきた。
「風邪を引いてしまうから! ああ、なんてことだ! 身体がこんなに冷えて!! すぐにストーブの前に行こう、ね?」
どっかの大会社の社長さんと言われても納得してしまう威圧感を纏った男が、あわあわと泡を食う様子に、思わず笑みが漏れてしまう。
全身を覆っていた不安が、すうっと払拭されてゆくのがわかった。
呼吸もだんだん楽になる。私はホッと息を吐いた。
「あ、大丈夫です。えと、お、お父さん?」
私は目の前の男性を、面映ゆい心地でそう呼んだ。