Under The Darkness
髪を乱暴に掴まれ、後ろに引き倒される。
上向かされ、ヒュッと喉が鳴る。
綺麗な弧を描く京介君の唇が、私の唇に重なった。
呼吸すら奪うような激しい口接。
僅かに香る鉄の味に、それがさっき噛みついた時のものだと分かり、胃から酸っぱいものが込み上げてくる。
歯を食いしばって浸入を拒否するけれど、頬骨をキツく掴まれ口が勝手に開いてしまって。
容易く侵入してくるヌルついた舌をかみ切ってやろうとしても、閉じることさえ出来ない口では、それすらままならない。
唇の端からは嚥下しきれない唾液が顎を伝い、喉元までゆっくりと滴り落ちるのがはっきりとわかって。
悔しくて。何も出来ない非力な自分が口惜しくて。
硬い体躯が私の上にのしかかり、さらに身体の動きを封じ込めようとする。
身体を必死になって揺すり、上から退かそうとしても微動だにしてくれなくて。
怖かった。過去の記憶が蘇ってきそうになる。京介君の姿が私を貶めた男達の姿と重なりそうになる。
それが嫌で、動きを封じられた四肢をばたつかせ渾身の力で暴れまくった。
思いきり顔を背けたときに、掴まれた髪の毛がブチブチッと音を立てて抜け落ちた。
「……離してっ! だれかっ……栞ちゃん! 悠宇!……ぐぅっ」
京介君は、大声で騒ぐ私の口に、枕元にあったタオルを捩じ込み、暴れまくる私の両手をサイドボードに置かれたネクタイで縛り上げた。
「……あまり私をイラつかせるな」
激しい焦燥を滲ませながら、京介君は私から言葉さえも奪ってゆく。
悔し涙がとめどなく頬を伝う。
私が流した涙に京介君は顔を寄せ、舌先で掬い上げた。
「苦痛と快楽、どちらがより貴女を傷つけるのでしょうか」
優しげな口調で、人を堕落させ貶める悪魔のように、甘く凄艶な微笑みを浮かべながら問いかける。
答えることの出来ない私に、京介君の笑みが、獲物を追い詰める愉悦を孕みながら、ゆっくりと嗜虐的で邪悪なものに色を変えてゆく。