Under The Darkness
ふいに、執拗に蠢《うごめ》く指先が動きを止めた。
薄く開いた唇が私から離れ、透明な糸がふたりを繋ぐ。
ぼやける視界で、私は京介君の姿を捉えた。
「さて。貴女のアパートは、確かこの先でしたね」
私から身体を離した京介君は、何事もなかったような顔で私を見る。暑いほどの熱に包まれていた身体が、ぬくもりを失い途端に冷たく感じられた。
けれど、身体の内側を焦がす行き場を失った熱だけが、じわりじわりと内壁を溶かし暴れ出そうとしてるように感じて。
私の手が、救いを求めるようにして京介君のコートの裾を握りしめていたことに気付き、慌てて手を離した。
支えを失った私の身体がふらりと傾《かし》ぐ。
肩にあたった背後の壁に身を預け、呆然と京介君を仰ぎ見た。
「……うぅ、しんじ、られ……へ、」
「こんな街中なのに。赤い顔で、潤んだ瞳で。――だらしない」
嘲る言葉と視線に、カッと顔が羞恥に染まった。
私を尊大に見下ろしながらうっすらと口元に笑みを浮かべる京介君に、誰のせいだと恨みがましい目を向ける。
そんな私のささやかな反抗を鼻で嗤い、京介君は長いコートを翻《ひるがえ》した。
そして、京介君は私をその場に置き去りにしたまま、人通りの多い歩道へと向かい歩き出してしまう。
颯爽と歩く後ろ姿を睨みつけた。
膝が笑っていて、まともに歩ける自信がない。
その場に立ち竦む私を振り返った京介君は、
「行きますよ?」
意地悪な笑みを浮かべながら、そう言ったんだ。