Under The Darkness
「あかん! 忘れろ、あんなん犬に噛まれただけや。なんもないし、なんも思てないし、平気やし。……くそっ、頭おかしいんちゃう、あのエロ眼鏡め。死ね死ね死ねっ撲殺じゃっ」
ぶつぶつと呪文のように文句の言葉が口を吐く。
ガチャリと鍵が開き、扉に手をかける私の掌に、ヒヤリとした冷たい手が重なった。
「聞こえてますよ?」
肩にスッと顔が乗り、耳元に息を吹きかけるようにして囁かれる官能的な声に、ゾワリと全身が粟立った。
ギギギとギクシャクとした動きで、声の主を横目で見遣る。
少しだけ顔を傾けた拍子に、頬に唇が触れた。
「きょきょ、京介君……っ」
まいたと思ったのに。
私の方が絶対早いと思ったのに。
視界の端に映った京介君は、片唇だけつり上げた凶悪に恐ろしいご面相だった。