Under The Darkness




「きゃっ」


 ポワンッと柔らかい肉の塊にぶつかり、民家の植木の上にひっくり返ってしまう。


「いたた、」


 突然目の前に表れた巨躯を呆然と見上げる。

 でっぷりとした粗野な印象の中年男。

 その中年男が浮かべる笑みが下卑た品のないもので、私は眉を顰めた。

 少しくたびれたような疲れの混じる顔で、私を上から下まで無遠慮にジロジロ確認すると、その見知らぬ中年男はぼってりとした唇をさらにつり上げた。

 あれ、どっかで見たことあるような……。


 記憶を辿るが、朧気《おぼろげ》で明確な答えを掬い上げることが出来ない。


「お嬢さん、藤沢美里さんやね?」


 なんで名前知ってるのか。嫌な予感しかしない。


「違います。失礼します」


 すっと立ち上がり、投げ出されたカバンを手に、男の脇を通り過ぎようとした。

 腕を掴まれそうになり、さっと避ける。


< 136 / 312 >

この作品をシェア

pagetop