Under The Darkness
「きゃっ」
ポワンッと柔らかい肉の塊にぶつかり、民家の植木の上にひっくり返ってしまう。
「いたた、」
突然目の前に表れた巨躯を呆然と見上げる。
でっぷりとした粗野な印象の中年男。
その中年男が浮かべる笑みが下卑た品のないもので、私は眉を顰めた。
少しくたびれたような疲れの混じる顔で、私を上から下まで無遠慮にジロジロ確認すると、その見知らぬ中年男はぼってりとした唇をさらにつり上げた。
あれ、どっかで見たことあるような……。
記憶を辿るが、朧気《おぼろげ》で明確な答えを掬い上げることが出来ない。
「お嬢さん、藤沢美里さんやね?」
なんで名前知ってるのか。嫌な予感しかしない。
「違います。失礼します」
すっと立ち上がり、投げ出されたカバンを手に、男の脇を通り過ぎようとした。
腕を掴まれそうになり、さっと避ける。