Under The Darkness





「やめっ、離しい!」


 私も腕が抜けるほどに思いっきり引っ張り返す。

 男のふくよかな手が叫ぶ私の口を塞ごうと回る。

 私は顔を避けたんだけど。


「栞ちゃんっ、悠宇っ・・・・ぐっ」


 大きな汗ばんだ掌が鼻ごと押さえてきて、呼吸を止められてしまう。

 苦しくて藻掻く私のお腹に腕を回した男は、軽々と抱え上げてしまって。

 足が宙に浮いて、どこかへ連れて行かれると冷たい恐怖に支配される。もうダメだとギュッと目を瞑った。


 ――怖いっ、助けて!


 
「……大概我慢の限界ですよ、美里さん」


 知った声にハッと目を見開く。

 そこには、超絶に不機嫌面をした京介君が、私を冷たい目で睨んでいて。

 知ってる顔に、助かったと安堵する。

 けれど。

 泣きたくなるほど安心するその感覚は間違っていると、私は思い直した。

 だって、目の前の男から私は逃げてきたんだから。

 この状況はまさに、前門の虎後門の狼だった。



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