Under The Darkness





「助けてって言ったら、助けてあげてもいいですよ」


 腕組みをした尊大な態度で、気のない声で、そんな意地悪なことを言う。

 何の冗談だと私は目を瞠った。


「お、お前っ! 馬淵の息子やな!?」


 豪の父親が焦った声で京介君に問うんだけれど、京介君は全くの無視で、視線は私から離れない。


「どうします? 美里さん。そのまま連れ去られて薬漬けにされた挙げ句、泡に沈む《風俗嬢の意》か。それとも、私に助けを求めるか」


 ――悠宇でも他の誰でもない、私を呼べば。助けてやってもいい。


 ニッと、妖艶に口角をつり上げて嗤う。


「なんじゃこら、無視してからに!」


 京介君に無視されて、豪の父親が眦《まなじり》を吊り上げる。


「黙れ」


 張り詰めた空気を切り裂く、低い恫喝の声。

 凄まじい怒気を孕んだ視線に射貫かれて、豪の父親は言葉を失っていた。

 私を拘束する男の腕が小さく戦慄く。


< 139 / 312 >

この作品をシェア

pagetop