Under The Darkness




 京介君が、豪の父親をめちゃくちゃに殴り、蹴り上げていた。

 振り上げた長い足が男の腹を思うさま抉る。

 ぐぇっとヒキガエルが潰れたような声を上げて、豪の父親が蹲る。

 くの字に体を折る男の顔目掛けて、京介君が下から蹴り上げた。

 放物線を描きながら吹っ飛ばされた男にまた京介君が殴りかかる。

 京介君の顔は嬉々としていて。笑みさえ浮かんでいた。

 コンクリートにはどす黒い血しぶきが、そこかしこに飛び散っていて――惨劇という名に相応しい光景だった。

 それは、無抵抗になった男に加える、京介君の一方的な暴行。

 京介君の動きは、まるで舞いを踊っているように無駄がなく、目の前で繰り広げられる暴虐の舞いを、私は美しいと思ってしまった。

 豪の父親の手からはナイフが零れ落ち、それを京介君が拾い上げた。

 ハッと意識が戻る。

 ナイフを手に、京介君の狂暴に輝く双眸が男を捉えているのを見て、私は声を張り上げた。


「京介君! アカン! それ以上やったらアカン!!」


 ふっと、京介君の目が私に向く。

 手にしたナイフを側溝へ放り投げ、京介君は漆黒のコートを翻しながらこちらへ歩き出す。


「アンタ、なにしてんの!」


「美里さんに危害を加える害虫の駆除を」


「やりすぎや!」


「そうでしょうか?」


 わからないという顔で首を傾げる京介君に、私は目を、耳を、疑った。

 その時、パトカーのサイレンが聞こえて来て、背中に氷を当てられたような戦慄が走った。

< 143 / 312 >

この作品をシェア

pagetop