Under The Darkness
「くくっ。無駄だと分かっていて抵抗し足掻く貴女の姿は、愚かすぎて……愛おしい」
口付けたままの状態で、目尻を染めた恍惚とした表情で、愛に似た言葉を囁く。重なった唇が弓なりにすうっと吊り上がる。
その様子が肌を通して感じられる程近しい距離。
口付けながら、ひんやりした京介君の手が破れて残骸と化したシャツの下から肌を撫でるように侵入してきた。
胸に触れる手の冷たさに、ビクンと肢体が竦み上がる。
――あかん! このままやったら、……好きにされてまう!
錯乱した私の視線の先には、壁に立てかけられたバドミントンのラケット。
身体をよじって必死で手を伸ばし、それを掴んだ。
そして、京介君に向かって振り上げる。
「――っ!」
ラケットの先が京介君の顔面を直撃し、弾みで眼鏡が弾き飛ばされ、それが壁に叩きつけられた。
一瞬、腕の拘束が怯んだ隙に私は玄関扉に向かい一気に駆け出した。
抵抗することは無意味だと、痛いほど知っている。
諦めることにも慣れた。
一度は、好きにすればいいってこの身を投げ出したけれど。
でも、この男にだけは――――。
半分とはいえ血の繋がった弟であるこの男にだけは。
絶対に踏み越えてはならない境界線を、姉である自分が越えさせてはならない、そう思った。
たとえそれが、復讐という名を借りたものであったとしても。
――一線だけは決して越えさせない。
強くそう思った。