Under The Darkness
side京介:episode1――13 years old――
「ほら。早く早く、京介。置いていくよ」
「わかってますよ。ちょっと待ってください」
そわそわと落ち着かない父さんを尻目に、私はうんざりと溜息を吐く。
これは毎月の定例行事だ。
毎月数回、父さんに『大阪へ行こう』と誘われる。
その度に私の気が重くなる。凪いだ湖面にいくつもの波紋が広がるように、心がざわめき落ち着かなくなるのだ。
そんな訳のわからない感情に支配されることが、私にとって最も腹立たしいことだった。
「美里ちゃんは大分大きくなったのかなあ」
「父さん、先月も同じこと言ってましたよね。大体ひとつきやそこらで大きくなんてなるわけないでしょう」
また気鬱なため息が漏れてしまう。
気が重いのなら、大阪行きなど断ればいいのにといつも思う。でも、断ることがどうしても出来ないでいる。
彼女の姿をただ視界に捉えるだけで、私の内側で激しい感情がうねり、どうしようもないほどにかき乱されてしまう。そして、自分の中にある狂暴な感情をコントロール出来なくなる。
ならば、見なければいいのだと答えを出しても、彼女の姿を見ずにはおれない。
まるで麻薬に侵された罹患者のように、触れてはいけないと分かっていながら手を伸ばさずにはいられない、そんな常習性が彼女にあるのではと、愚かしい責任転嫁をしてしまいそうになる。
姿を見るとイライラする。同時に、変わらぬ彼女の姿に安堵する。そんな相反する感情を持て余し、さらに苛立ちが募る悪循環。
大阪へは異母姉・美里さんを見るために訪れる。
正直、行ったって直接会うこともなく、ただ物陰からこっそり見てるだけなのだが。
父はそれでも嬉しいと、毎月欠かさず訪れる。