Under The Darkness
「美里さんに触れるな」
私は激しい怒りのまま、美里さんに触れる男の汚い手を掴み、加減なくねじり上げた。ゴキッと骨が外れる鈍い音が耳朶を掠める。
「ぅ、ぎゃあっ」
絶叫する男の顔面に拳を叩き込む。
突然現れた私に、男は応戦しようと負傷した手首を守りながら拳を振り上げるが、反撃の間など与えず私は殴打を繰り返した。
サンドバックと化した男は、戦き、頽れ、なす術もなく頭を抱えてその場に蹲る。
腕で抱え込んだ頭ごと横から蹴り倒し、そのまま馬乗りになって繰り返し殴りつけた。
砂地の地面、這うようにして生える緑の雑草、卑猥な落書きがされた薄汚れた壁、それらに夥しいほどの血痕が飛び散り、辺りを鮮烈な赤に染め上げる。
私の拳もいつの間にか穢れた赤へと色を変えていた。
この男が憎かった。
近親憎悪に似たものを感じて、余計に拳に力がこもった。
美里さんを見つめていた目、同じ空気を吸っていた鼻、美里さんを傷つける言葉を放った口、美里さんに触れた手、そして、妄想の中で彼女を何度となく陵辱したであろう股間を、何度も何度も足で踏み躙《にじ》った。
男は悶絶し、その場で気を失ってしまったが、構わずに殴り続け、横たわる身体を足蹴にした。
許せなかった。
目の前のこの男を、この世から消してしまいたいと思う程の激しい憎悪が、私を支配していた。
なぜそう思ったのか――やはり理解はできなかったが、ただ許せなかった。