Under The Darkness
ギイッと鉄の重い扉が開き、薄暗い室内へと入る。
殺風景な部屋には小さな豆球が1つぶら下がるのみで、どんよりと薄暗いそこは、血臭と鼻を突く青臭い臭いが満ちていた。
男の掠れた呻き声が不快に耳を掠める。
「そんな男でも買い手があるんですね」
力なく身体を弛緩させる汚れた男に視線を流し、眉を顰めた。
「この世界、ムショで男の味を知る者も少なくないからね。需要はあるってことなんじゃないかな」
ちらりと横目で私を流し見ると、父さんは吞気な声でそう答えた。
ゆるりとタバコをふかしながら、父さんはソファに腰掛け終わりのない饗宴を眺めている。
「そんなものを見て愉しいんでしょうか」
「うん。愉しいねえ。可愛い美里ちゃんを苛めた男をいたぶるんだから。愉しくて仕方ないよ」
そう言って、父さんは自分の手で切り落とした数本の指をサイドテーブルに等間隔で整列させながら、ふふっと肩を揺らせて嘲笑を浮かべる。
そんな父さんを見て、私はそうではないと首を振った。
「見るだけでは愉しくないって言ってるんですよ、私は」
「ええ!? この饗宴に参加するとか言うんじゃないよね!?」
まさかこの男をお前が犯すつもりなのかと、父さんは目を丸くした。
なんという勘違いをするのかと、気持ち悪さにげっそりと口元を押さえてしまう。
「……やめてください。誰がこんな男を抱いて喜ぶんですか」
冗談じゃないと父さんを睨みつける。
そして、イライラとした感情のまま、男へと視線を向ける。
そこには、美里さんを傷つけた田口豪が、幾日も男達に嬲られ続け正気を失い、廃人と化した姿があった。
「この男だけはどうしても許せない。美里さんを自由にしただけでなく、新たに恐怖心をも植え付けた。……許しがたい」
「好きにすればいいよ。どうせその男は、田口組の元組長からも好きにしていいって言われてるからね」
「それはよかった。では」
持ってきていたジャックナイフの鞘を抜き取りながら、私は豪に近付いた。
全裸に剥かれ、男達に嬲られた豪の身体は、彼に乱暴された美里さん同様、血と汚辱に濡れていた。
「起きろ」
豪の頭を足で蹴り上げる。豪の身体がビクリと戦慄くように揺れた。
俯せになる男を蹴り上げて、身体を反転させる。
うっすらと開いた目が私の姿を捉えて驚愕に震えた。
「私の顔を覚えていますね?」
ガクガクと烈しく慄え、血の気を失った顔からは、病的なほどに血の気が引いてゆく。
「貴方は私の姉を傷つけた。私の許可なく好き勝手した。これはとても許せるものではありません」
私はポケットから革製の手袋を取り出し、それを填めながら淡々と豪に告げる。
青紫に変色した豪の唇からは、歯の根が合わずカチカチと耳障りな音がひっきりなしに聞こえてくる。
「姉の身体を好き勝手に貪ったソレ。私がいただきます」
豪の目の前に、私はナイフを翳した。
「ヒイィッ! や、やめっ、」
掠れた細い声が豪の口から漏れる。
豪が発した女のようなおぞましい悲鳴を、振り上げた足で思うさま蹴り、抉ることで止めた。
「これは復讐ではありませんよ? ただの私怨です」
私は正直に答え、そして、美里さんの処女を奪ったソレに刃先を当てた。
「ひぃっ、や、やめ、ぅああああっ」
「私の美里さんを傷つけた。これは、万死に値します」
にっこりと笑顔を浮かべながら彼に告げ、私はナイフを持つ手に力を込めた。