Under The Darkness
「……なっ」
私、服を着てなくて。
それは京介君も同じで、裸のまま抱きしめられていた。
慌ててシーツをかき集めて身体を隠す。
「ぅ、わっ」
思わず驚嘆の声をあげる。
私の二の腕がえらいことになっていた。
いや、腕だけじゃない。
全身が尋常じゃない事態に陥っていて、もはや頭はパニック状態だった。
擦過傷を避けるようにして、二の腕だけでなく全身至る所に赤い華が散っていて。
「……キ、キスマーク……」
まるで、自分の所有物だと主張しているようで、動物のマーキングに似た彼の行動に目を覆いたくなった。
「……ちくしょ、悔しい……」
身体を自由にされたこと以上に、京介君の手で乱れてしまった己自身が悔しくて仕方ない。
その上、夥《おびただ》しいほどの所有印まで刻まれて。
敗北感に満たされる。
敵わないとはっきり自覚してしまう。
このままでは、本当に取り返しのつかないことになるかも知れない。
男に溺れるなんてもっての外だ。
そんなのは私じゃない。
頭を占めることは、初志貫徹、1つだけ。
――――この男から逃げなければ。
半分だが血の繋がった弟に、これ以上好き勝手させるわけにはいかない。
来年の3月までどこかに身を潜めることが出来れば、あとは絶対に見つからない自信がある。
見つかるわけがないのだ。
期限まで後3ヶ月ほど。
それまで何とか逃げ切ることが出来れば。
『逃げれば殺す』
京介君の言葉を思い出してゾッと身体が震える。
実際殺すことはないだろうが、近いことはされるかも知れない。
いや、やるだろう。この男なら。
でも、だからといって恐れるあまりなにも行動できないなんて、昔の自分みたいでイヤだ。
――――絶対に逃げてやる。
私はそろりと京介君の腕を持ち上げて、まずはここからの脱出を試みる。
「……おっ、重っ」
細身だと思っていた京介君は、実は着やせするタイプだったらしく、分厚い筋肉に包まれた腕の重いこと重いこと。
ちくしょうと歯を食いしばって腕を持ち上げ頭をくぐらせた時だった。
「ふぎゃっ」
腕ががくんと落ちてきて、私の頭はベッドに沈んだ。