Under The Darkness
「どこへ行く気ですか」
寝ぼけた声などではなく、いつも通りの冷淡な口調で問われて答えに窮する。
頭を沈められて、声が出せないどころか息も出来ない。
手をバタバタさせて、頭に乗った腕をどけろとアピールするんだけれど、京介君の腕は一向にどいてくれなくて。
――死ぬ死ぬ死ぬっ!!
本当に窒息するかと思った時、頭の上から京介君の腕がふわりと退いた。
「ぶはっ」
両手を突いてぜえぜえ荒い息を吐く。
泣きそうになりながら隣でニヤニヤ嗤う京介君を射殺さんばかりに睨みつけた。
「コソコソと、どこへ行く気だったんですか」
「……アンタとは口きかん」
サイドボードに置かれた眼鏡を取りながら、京介君は問うてくる。
私は顔を背けて、『起きやがった畜生め!』と心の中で舌打ちした。
「どこへ行くつもりだったのか聞いている」
声がワントーン落ちた。
……怒ってる。
無視したものの、吸い寄せられるように怖々と横目で窺ってしまう。瞬間、向けた視線を光の速さで逸らした。
……見るんじゃなかった!
怖い。怖すぎる。
唇は柔らかな笑みを刻んでいるんだけれど、闇夜のように静逸な彼の目が静かな怒りを湛えていて、けれど、その裏側に隠しきれない激情がちらついて見えて、すうっと背筋が凍りついた。