Under The Darkness
「シャ、シャワー!」
口をきかないと豪語した次の瞬間には、ビビって前言撤回する自分が情けない。
がっくりと項垂れる私に、京介君がさらりと余計なことを抜かした。
「貴女が眠っている間に入れました。全身綺麗に、中もちゃんと指で掻き出して洗いましたよ。必要ないのでは?」
「ぶっ、はああ!?」
「だから、貴女が眠っている間に、」
ちゃんと聞いとけとばかりに眉をひそめられ、私は怒髪天を突いた。
「2回も言うな! そこちゃうわ! 勝手に入れたとか洗ったとか、中ってまさか……ぎぃやあぁっ! 信じられへんアホちゃう自分!? アンタ、人が気ィ失ってる間にナニ好き勝手なことしてんの!?」
かああっ顔に熱が集中してくる。
私の意識がない間に、なに勝手三昧しくさってくれているのか。
羞恥心はないのか、皆無なのか!?
……信じられない!
あまりの羞恥に、私は憤死寸前で。
「? 貴女のカラダを私のモノで汚してしまったので」
京介君が何を怒っているのか分からないって顔で、何故シャワーが必要だったのかを説明しだして、私、その場にかちんと固まった。
「ぎゃ――っ!! 黙れ! 信じられへん! 誰がそんなこと聞いたか!! 死ね死ねっ」
「貴女に殺されるなら、それもいい」
ふふっと色悪な色気を漂わせながら、また私の腰に手をまわしてくる。
慌ててその手を払い落とした。
「イヤじゃ! アホちゃう自分!? こんの変態めっ!ってかここどこやねん!?」
これ以上好き勝手されてたまるか!
この男の手が届く守備範囲から離れねばと、じりじりベッドの端まで後退る。
「私の部屋ですが」
「あ? 京介君の部屋?」
「ここは馬淵の家です」
「え!? いつの間に東京に戻ってきてる!?」
あのまま逃走するつもりだったのに。なんてことだと愕然とする。
「ええ。貴女が眠っている間に」
「……じゃあ、ここは東京……」
東京と言うことは、悠宇がいる。
なんとかここから逃げ出せたら、悠宇に拾ってもらえるんじゃないか。
私は素早く計算してほくそ笑む。
京介君がじっと観察するような目で私を見ていることに気付き、ギクリと肩をいからせた。
「シャワーを浴びたいならご一緒しますよ」
にっこりと、優等生な笑みを浮かべて京介君は誘い掛ける。
その誘いを、私は京介君の口調を真似て答えてやった。
「謹んで辞退しまくるに決まってるやろが!」
「今、シャワーを浴びに行くと言ったじゃないですか」
「もうええ。どーでもよくなった」
私は黒のシーツを身体に巻き付けたまま、ベッドから降りようと床に足を着けた。
「どこへ行く気ですか」
「ここは馬淵邸なんやろ? だったら私がおった部屋に戻んねん。ってか、私の荷物は?」
「貴女の部屋に置いてあります」
「そ。じゃ、戻るし」
つんっと顔を背けて立ち上がる。
無視して出て行こうとしたら、私が纏うシーツの端を京介君が掴んでベリッとひっぺ返した。
「却下します」
「ぎゃっ! な、なにすんの!!」
両手で胸を隠し中腰になりながら、京介君からシーツを奪い返そうと手を伸ばす。
その手をがっしり掴まれて、京介君の上に引き倒されてしまった。
「今、ニヤニヤとした顔でよからぬことを考えていましたね? 貴女の愚鈍な頭では、まだ状況が理解できていないようです」
一見好青年と婦女子達にウケるだろう、そんな爽やかな笑みを浮かべて、京介君は私の腰に回した腕に折れるほどの力を込めた。