Under The Darkness
「美里《みさと》。なあ。何考えてんねん? なんでそんな顔するんや」
暴力の後、豪はぐったりと倒れ込む私の顔を覗き込んできて呟いた。
「……なにも」
考えてない。
ただ、豪から逃げること以外は。
それは言葉に出さない。出したら最後、また乱暴をされる。
……怖い。怖かった。
「綺麗で、白ぅて、ちっさい顔やな。ほんま人形みたいや。確か、母親がロシア人とのハーフや言うてたな。美里ほど綺麗な女、芸能人にもおらんで」
笑みを含んだ声で、ベッドに横たわる私の顔を無骨な仕草で撫でてくる。
ごつごつした大きな手が、私の頬を愛おしむように辿り、唇を開けるように軽く押さえた。
「……すまんかったな。顔、殴ってもうて。赤あなってる。でもな、俺に逆らうお前も悪いんやで? ほんまは優しいしたいんや。お前がイヤやなんて言うから。わかってるやろ? もうお前は俺の女や。誰にも渡さん。ずっと好きやった。中学の頃から、ずっと。ずっとやで。お前は俺の初恋やからな」
掻き抱くようにして、ぎゅうと抱きしめられる。
苦しくて、顔を上げたら唇を奪われた。
「……ああ、可愛い。ホンマ可愛いなあ、美里」
骨張った顔を私の頬に擦り寄せて、豪は私を掻き口説く。
「どっこも行くな。俺の側におってくれ。お前、ふっと消えてどっか行ってしまいそうな顔する。……今みたいな顔や。そんな顔せんといてくれ。前みたいに、俺に笑ってくれや」
私はゾッとした。
豪の前で私は笑った事なんてない。
きっと、どこかで身を潜めて見ていたのだ。
何も知らず、笑っている私の姿を。
「ああ! そうや。美里に似合う思て、ええもん買うてきたんやった。おいっ!!」
厳つい怒声に、重たい扉が開く音が聞こえる。
ギギギ、と金属を擦り合わせたような不快な音がして、そこから赤い髪をした男が顔を覗かせた。
「なんすか? 田口さん」
「あれ持ってこい。美里に買うてやったヤツや」
「ああ、アレですね。わかりました」
赤毛の男はそう言うと、バタバタと去って行った。
そして、すぐ戻ってきて、可愛らしくラッピングされた包みを豪に手渡した。
「はよ去ね」
顎をしゃくり、裸のままシーツにくるまれる私を見せまいと、豪は赤毛を追い出した。