Under The Darkness
私はお父さんに滞在先を知らせた後、ふたりでマンション近くのスーパーに買い出しに出た。
冬ごもりをするのかというほど大量の食料品を買い込んで、両手が塞がりヨロヨロしながらマンションの下まで戻って来たんだけど。
私はバッと後ろを振り返った。
私道を挟んだ向かい側には雑居ビルが林立している。
人の通りは比較的多い。
――今、鋭い視線を感じた。
眉根を寄せながら、辺りに視線を流す。
ふと、近くにタバコの香りを感じた。
臭いを辿り、足元に視線を向けると、電柱の影に数本の吸い殻が落ちていて。
そのうちの1本がまだ煙を燻らせていた。
このフィルター部分、茶色い線が入ってる。
見たことある。最近見た。覚えてる。
確か、この銘柄は――。
そう思って、ギクリとする。
……まさか、京介君、違うよね。
辺りをザッと見渡す。
水商売風の綺麗なお姉さん、飲み屋のチラシを持ったバイトの呼び込み、大学生くらいの集団。
見る限り、知っている顔は見当たらない。
「みぃちゃん? どした? なんや猫が毛え逆立ててるみたいやで?」
「……ん。なんでもない」
後ろをチラチラ気にしながら、私はマンションの入り口に設けられたオートロックを開錠し、逃げるように建物内へと駆け込んだ。