Under The Darkness




 私は感じたことのなかった『男』を悠宇に感じて、心がザワリと細波《さざなみ》を立てた。今まで感じることのなかった『恐怖』を彼に感じて、こくりと喉が鳴る。


「オレ、ずっと待つつもりやった。美里がオレを受け入れてくれるまで。でも、そんな悠長なこと、もう言うてられん」


 悠宇は苦しそうに眉根を寄せて頭を振った。

 このまま彼に添うてしまおうか。

 他の男より、悠宇は私にずっと近い。

 でも。

 私の中の何かが、烈しく私を躊躇させる。


「美里、愛してる」


 その言葉に瞠目した。

 悠宇の告白は、激しく私を動揺させる。

 私に向けられる『愛』は、私を引き裂く暴力の合図。

 歪曲した私の心は、『愛』を拒む。

 受け入れることが出来ない。

 どうしていいか答えが見つからない。


 吐露される悠宇の言葉に心が揺れる。

 でも、その奥底で激しく拒絶していた。

 悠宇の顔が近付いてきて、唇に触れようとする。

 私の唇が小さく痙攣した。


 ――コワイ。


 家族のように近しかった彼が、『男』に姿を変えることが、怖かった。



 ――ピンポンピンポンピンポン



 ハッと悠宇の動きが止まる。

 玄関ベルがけたたましく鳴り響く。

< 230 / 312 >

この作品をシェア

pagetop