Under The Darkness
苛立ちに目を眇める悠宇に、私はホッと安堵してしまう。
悠宇の腕の力が緩んだ。
「で、出る!」
悠宇の腕から抜け出した私は、玄関へと逃げるように飛び出した。
背後で深い溜め息を吐く悠宇を感じながら、恐る恐る覗き穴から外を見てみる。
「え」
玄関前に佇む彼を見て、私は急いで鍵を開けた。
「美里ちゃん、悠宇はそこにいる!?」
玄関前にいたのは、先ほど別れた事務所の鈴木さんだった。
「……なんやねん」
不機嫌な悠宇の声。
壁にもたれ掛かるようにして足を投げ出し、恨みがましい目を鈴木さんに向けている。
「聞いて! 悠宇、ドラマ決まった!!」
「あ?」
悠宇の目が見開かれる。
私は驚いて目を瞠った。
「ドラマ?」
私が呟いた言葉に、鈴木さんは紅潮させた顔でうんうん頷く。
「月9だよ!! 主役の相手方に選ばれたっ! やった、悠宇!!」
バンザイして鈴木さんは部屋へと入ってくる。
驚いた顔の悠宇の手を掴むと、そのまま玄関まで連れ出そうとする。
「ちょっと。なんでオレ連れ出されようとしてるん」
「スポンサーがね、是非悠宇に会いたいって」
「今から?」
「うん、なんか急に連絡があって。今しか時間取れないからって。ほら、そのままでいいから急いで!!」
悠宇は私を見た。
もの凄く名残惜しげな顔で。
私はギクリとしたが、
「行ってきな。悠宇、ドラマやりたいって言うとったやん」
「なんでこんなタイミングで……」
消えそうな声で呟かれる悠宇の声に苦笑がもれる。
「みぃちゃん、さっき告白したん、ちゃんと考えといて? 逃げんなよ?」
「……ん。わかった」
私は頷いて答えを返した。
明確な答えなんて、まだ何も出ていないけれど。
「すぐ戻るから!!」
悠宇は鈴木さんに引っ張られるまま、ずるずる外へと連れ出されてしまった。