Under The Darkness





 私は玄関先で悠宇の姿が消えるまで見送った後、そのまま肩の力が一気に抜けてガクリと頭を垂らした。

 はーっと大きな溜め息が漏れる。

 張り詰めた緊張が解けてゆく。

 悠宇の告白が私に思いの外緊張を強いていたのだと、この時初めて分かった。

 気の抜けた状態で、扉を閉めようとノブを引く。

 刹那、視線を落としていた私の目に、黒い影がサッと割り込んできて。


「え」


 黒い足先が玄関扉の間に差し込まれる。

 心臓がぎゅっと掴まれたような衝撃が走った。

 大きな手が扉を掴み、グイッと引かれる。

 ノブを掴んでいた私の身体ごと、外へと引き摺り出されてしまう。

 蹌踉《よろ》めく私の身体が黒い塊にぶつかった。



 冷たい身体が私を包む。



「忠告、しましたよね?」



 私を慄わせる、冷ややかだけれど甘いテノールの声。

 緊張が全身を駆け巡る。

 ぎこちない仕草で、私は声の主を見上げた。

 彼の姿を捉えた目が驚愕に固まる。


「そんな……なんで」


「父さんまで巻き込んで。無事に逃げられたと思いました? ……残念でしたね」


 くつくつ肩を揺らせているのが密着した身体から伝わってくる。

 背中に冷たい汗が流れ落ちた。


「きょ、京介君……」


 恐怖に舌が縮こまって上手く言葉が紡げなくて。

 たどたどしいまでに震える私の声が、衝撃の大きさを物語っていた。

 がっしりと逃げられないように身体を拘束され、私は言葉を発することも出来ず、驚愕の眼差しで京介君を仰ぎ見た。


「あれほど忠告したにも関わらず、私から性懲りも無く逃げ出した。その勇気は褒めましょう。けれど、私以外の男を、悠宇を頼ったこと。それは、一番やってはいけないことでした」


 腕にこもる力がさらに増す。

 私を抱き潰そうとするほどの強さ。



「……覚悟は出来ていますね?」



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