Under The Darkness


「…京介、くん…」


 喘ぐように彼の名を呼んだ。

 汗を滲ませた彼の顔が、ふいに優しく歪む。

 頭を抱えるようにして包み込まれる。

 汗ばむ湿った肢体。

 いつもは冷たい彼の身体が、私の体温よりも熱くなっていた。

 京介君の唇が私の顔に擦り寄るようにして触れてくる。


「……美里さん、美里、」


 荒い吐息混じりに何度も私の名を紡がれる。

 私の身体にはもう痛みはなかった。

 残ったものはケダモノの本能だけ。

 熱い吐息が耳朶を掠める。

 うっと小さな呻きと共に、私の身体の中に狂おしいほどの熱を注がれ、想いが吐き出される。

 けれど、京介君は私の身体から退こうとはせず、内に留まったまま。

 同じように荒い息を吐きながら、私は京介君を見上げた。



 今、私を見つめるこの眸にあるものは『憎しみ』だけなんだろうか。

 それとも、豪が私を食い荒らしたように、家族だった悠宇を男に見せたように、私が厭い嫌悪する感情が混じっているのだろうか。

 両方とも正解で、全てが間違っているように、私は感じた。

 単純にみえるその答えは、京介君の中にも、もしかするとないのかもしれない。

 けれど、私は知りたかった。

 血の楔を断ち切ってまで私を繋ぎ止めたいと願う、彼の『本当』がどこにあるのかを。

 私は京介君の首に手をまわしたまま、交差した掌で左の手首に填められたリストバンドを握りしめた。

 そして、私は覚悟を決めた。

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